text 1/4 #01「手袋ひとつ分の恋心」

 冬が寒いって誰が決め付けたのかは知らねぇけど、今年の冬は大寒波だった。唯一持ってるマフラー程度じゃ防げそうにないし、更に寒さ対策でもしようものならオレの懐具合も大時化。
 冬を過ごせるか過ごせないかって矢先に、オレはあいつに出会った。
 年齢を誤魔化してバイトしてる居酒屋から出たとき、どういう訳か出くわした。あいつは悪趣味なネオン街の光をギラギラした瞳に反射させて、にやりと口元を歪めさせる。

「よぉ、犬っころ」

 遠目からでも目立つ銀の髪を風に揺らせて、オレに声をかけてきた。

「…バクラ」

 たまにしか姿を見せない千年アイテムの人格だ。みんなは危険だとかなんだとか色々言うけど、オレは別にそうは思わない。
 なんでか、バクラはオレと同じだと思う。どこが一緒とか言われると困るんだけどな。
 首から下げた千年輪をシャラリと揺らしながら、薄手のロングコートをひらひらさせてオレに近付いてきた。

「毎日ご苦労なことで」
「なんだよ、それだけ言うために声かけてきたのかよ」

 もう一人の獏良ならどうか知らねぇけど、こっちのバクラが労いの言葉なんて吐くはずもない。オレが知ってるこいつは、そんな男じゃない。
 だけど、クツクツと楽しそうというか悪どい笑いをした後、そのつもりだなんて肯定されちまった。
 そんなこと言われたら、なんて返していいか分からなくなる。こういうのを絶句っつーんだよな、そういう状況に陥ったオレを見てまた楽しそうに笑うのだ。
 悔しいけど造形の整った獏良の顔したバクラ(あー!やーこしい!)の笑みは、目を惹き付けられる。いつもみたいな馬鹿笑いじゃないから余計に魅入ってしまう。
 それに気付いたのか、笑うのをやめてオレを覗き込んできた。

「宿主サマは顔だけは整ってっからなぁ」
「顔だけって…。オレなんも言ってねーし!」

 息が触れそうになるくらいに近付いてきた顔に、どういう訳かドキドキする。

「吠えるなよ、犬。わざわざこの俺サマがここまで出向いてやったんだぜ?」
「は?出向く?オレ、頼んでねーよ」
「宿主サマが、このクソ寒い中で働く犬のことを心配してたんでな」

 獏良が?思わず聞き返す。

「ちと電波入ってっけど、あれはあれで気に入った奴にゃ甘い宿主サマでね」
「電波って…」

 律儀に答えてくれながら、今日宿主サマになんか吹き込んだろ、と言う。
 そう言われて思い出す。
 今日、この冬一番の冷え込みっつわれたのにオレがマフラーしか防寒着を持たずに学校に行った。そりゃみんなはコートとか着てたぜ?そこまで校則は厳しくねーから、色とりどりのコートで登校してた。
 そんな中でオレだけ制服にマフラー。そりゃ目立つわけで、偶然登校中に会った寒がりらしい獏良から見たら自殺行為に近かったようだ。教室に入るまで、しきりに気にされて、幾つ持ってんだっつーくらいのカイロを貸してくれた。
 かなり寒かったから有り難かったけど…、まだ気にされてたんだな。(心配されるって有り難いことだけど、なんか悪い気もする…)

「宿主サマはオレとはリンクしてねぇが、オレの方はメンドクセーことに宿主サマとリンクしててな。宿主サマがしきりに気にしてたことは俺サマにも違和感っつー形で残るわけだ」
「はあ…」
「てことで、手ぇ貸せ」

 そう言うなり、ぎゅっと手を捕まれる。貸せっていうか、有無を言わせねー感じじゃねーか!
 なんか言ってやろうと思った矢先に、手袋を片方だけ手に乗せられた。

「なんだよ」
「やるよ」

 片方だけ?
 意味ねーじゃん。獏良が好きらしい青と白のボーダーの手袋だけがオレの手の上に乗っかっている。

「右手だけ…」
「ゼータク言うな。俺サマも寒ぃんだよ」
「…そっか。じゃ、サンキュ」

 貸してくれたのか、それともくれたのかは分からない手袋を身に付ければ、ほんのりと人肌の暖かさを感じた。この暖かさはバクラの体温だって分かってるけど、なんだか妙に意外だと思う。
 透けるように白い肌とか髪とかのせいか、漠然と冷たいんだって思ってたから。
 だけど暖かいなって思うと、少し嬉しくなった。

「城之内、左手も貸せ」
「へ?お前寒いじゃんか」
「ぐだぐだうっせぇ!俺サマが貸せっつったら貸しやがれ!」

 突然キレるように声を張り上げて、ひったくるようにして左手を捕まれる。そしてそのまま、バクラの右ポケットに入れられた。

「…これなら、貴様も寒くはねぇだろーが」
「あ、うん…あったかい」

 バクラは優しい。オレが思ってたとおりだ。皆はこの姿を知らねーし見ようとしねーから、危ないって言うんだろうな。
 だけど、オレしか知らないバクラがそこにいて、少し優越感を感じた。今は、オレだけでいいかな…このバクラを知ってる奴はさ。
 カイロが入ったバクラの右ポケットの中で、指を絡ませる。
 同じような目線で、ふと目が合った。オレが笑えばバクラも少しだけ笑ってくれた。
 手袋ひとつ分の暖かさは、とてもとても暖かくてすごく嬉しくなった。

★★バク城でした。物凄く好きなカプなのですが、世間ではどうもマイナーらしいですよ。★★
☆☆拍手ありがとうございました。☆☆


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