電車に揺られながら、ふと窓を見る。
 雪がまばらに降っていた。
 大粒の大きな雪が。

SNOW LIP

 僕は大学に向かっていた。何故かと言うと、テストがあるから。
 一月も終わりの時期に設けなくても、もっと早くして欲しいものだ。
 一月上旬に1週間だけ学校に行って、それから2週間近く休み…じゃなくて補講期間があった。
 補講をしなきゃならないような授業は偶然無かったから、2週間以上のブランクを空けて久しぶりの大学だった。
 さすがに、山の方に向かってるだけあって寒い。
 寒さ故か雪が降ったんだ。凄く嬉しかった。
 僕は一年の中では秋が好きだけど、雪が降る冬も好きだ。
 時間的に二時頃という昼だけど、その時間の柔らかい日差しと相互して凄く綺麗だった。閑散とした寂しい景色に映えるような、鮮やかな白は美しい。
 目的地のある駅までは後2駅しか無いけれど、それまでは外を見ていようと思った。
 車内でのテスト勉強にも厭きてきていたので、丁度いいタイミングでもあったし。
 流れる景色と雪が溶け込んで芸術的だった。

「よっ」

 ポン、と肩を叩かれる。
 その声の主を見上げると僕のよく見知る人物だった。

「藤代」
「うん。は何してんの?」
「僕は大学にテスト受けに行く途中だよ。藤代こそ何してるの?」
「俺?俺はサッカーのれんしゅ。U-21の練習日なんだ」

 大きくて重そうなスポーツバックを肩にかけているのが目に入った。
 それでも平然と持っているあたり、さすがスポーツで鍛えているだけあるなぁと感じる。
 ひ弱な僕とは真逆だ。そんな藤代が凄く羨ましい。

「何のテスト?」
「うん?今日は心理学とドイツ語」
「…うわぁ…」

 嫌そうな表情を浮かべると、大変だねと彼は言った。
 勉強が嫌いだからと中学の頃や高校の頃に言っていた記憶が蘇る。
 そんな嫌そうな表情も態度も何もかもが藤代らしいな、と思えてくる。
 中高と六年間一緒だったとは言え、実際あまり会話らしいものをした試しが無い人間と、こうやって話をしていることすら不思議に思えてきたりする。
 僕と藤代は性格が全く逆だったからかもしれないけれど。
 でも別に仲が悪かった訳じゃない。
 高校二年のときに藤代が偶然にもくじ引きで保健委員になった時、僕も一緒だったし。
 その時は今ほどじゃなかったけど、会話もしていた。といっても、殆どが業務連絡みたいなものだったけれども。
 暫く二人で車窓から雪を見ていると、藤代が口を開く。

「なぁなぁ。雪ってさー、すっげぇ綺麗形してるよね」

 突然話を振られ、慌てて彼に目を向ける。

「そうだね」
「あのさ、あの形って一つ一つ違うんだって。同じのは一つも無いんだってさ」
「へぇ…知らなかった」
「えへん。…って言っても、笠井が昔言ってたんだけどね。ホント、雪ってすごいよなぁ…」
「うん…。僕、雪の形も雪も好きだよ」

 藤代が意外そうな顔をして僕を見た。

、寒いの苦手だと思ってた」
「そんなこと無いよ?」
「だって、なんていうか…春ってイメージあるし…固定概念とかいうやつ?」

 一生懸命頭を捻り、滅多に使わない言葉を使う藤代が、面白く見えた。
 いや、可愛くっていうのかな。そんな感じ。
 昔から全然変わってないけれど、どこか少しずつ変わり始めているのかもしれない。「固定概念」とか昔は絶対に言わなかった言葉。どっちかと言えば、そういうのは笠井の台詞。
 僕がそうしていると、車内のアナウンスに自分が降りる駅名が告げられる。

「あ、僕ここで降りるんだ」
「えー!ここで?俺、もっと話したかったなぁ…」
「僕もだよ」
「…明日も学校行く?」
「うん。明日でテストが最後なんだけど…明日もこの時間に来るよ?」
「ホント!?俺、この時間に電車乗ってるから!また声かけていい?」
「嬉しいよ。有難う」

 少し微笑めば、驚いたように目を丸くした。

「………笑ってる方が、いいじゃん……」

 藤代が何か呟くと、顔を背けた。
 何か変なことを言っただろうかと尋ねようとしたけれども、時間は待ってくれず駅に到着してしまう。

「じゃあね藤代、また…明日」
「う、うん!また!」

 僕はそう言って電車から降りた。
 草木の香りがする。
 扉が閉まるのと同時に、藤代はニッコリ笑った。
 それにつられて笑い返す。
 電車が去っていく。それが見えなくなるまで見送れば、少し背伸びをする。
 雪はまだ降っていた。積りはしないだろうけど、柔らかい日差しと雪の冷たさの心地よい空間。
 あの元気な藤代に会わせてくれたこの天気に感謝をした。


かわいらしい感じを目指してたのです。

モドル ▽