その感情、まだ半分につき。
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三上亮という人物を、恋愛対象として見ることができなかった。
本人は私をそういう目で見ていたらしいんだけど、最近はもうそんなことを言わなくなった。それどころか、それさえも飛び越えちゃったかのような仲。
もう、どうしていいかさえも分からないノンストップ的な家族っぷり。
「なー、ノート貸せよ」
「え。なんで命令形」
「姉さん、貸してください」
と、この調子だ。なにかあれば、彼は私を「姉さん」と呼ぶ。時には「母さん」とか言い出して、本当にどうしようかと思うくらいだ。同級生なのに。
けれど、こうやって姉さん姉さんと懐いてきてくれるのは、とても嬉しかったりする。
恋愛対象として私を見てきていた頃は、それはもうカッコ付けで弱みを見せることさえも嫌だという感じだった。そんな無理した三上亮を私は嫌いだった。
彼には無理せずに、そのままの姿でいて欲しい。
そう願ったから彼の気持ちには答えなかった。それを私の友人たちは口を揃えて、おかしいと言ったのだけれど、私にはそんな無理をした恋人はいらない。
そのまま彼と付き合ったら、彼にとても失礼だ。
本音をそのままぶつければ、次の日からこの調子だった。
同じサッカー部の人にしか見せない本当の姿を、彼は曝け出してくれる。どうやって気持ちに区切りをつけたのかは分からないけれども、私とはこういう関係を築いていた。
「姉さんはさ、なんでこんな俺がいーわけ?」
「なんでって…言われてもなあ」
ノートを写しながら、彼は私に尋ねてくる。
この三上亮の性格は、クラスメイトや他人が知っているような俺様なものではない。どちらかと言えば等身大の中学生そのもの。
いや、もしかしたらそれ以下かもしれない。
なんというか、無理していた分に幼い感じというのか。私は机に頬杖をつきながら、彼の手元を見つつ答える。
「ありのままの貴方が好きだから…かな」
「じゃーさ、こんな俺が好きです惚れてますーっつえば、姉さんは付き合ってくれるわけ?」
「それはどーかなあ。今の三上は恋愛対象を飛ばして大好きなのよ」
「生殺し状態かよ」
「え、でも。恋だの愛だのそういう感情を飛び越した次元なんだから、貴方以上の人なんていないじゃない」
そう、私はそういう言葉で括れるような感情で彼を好きなんじゃない。
言葉でなんか言い表せるような関係なら、一緒にいるはずがない。
友達とか恋人は一日のうちで数時間会話をすれば十分だけれど、今の三上にはずっと一緒にいたいという感情がある。家族みたいな感じ。
「そんな家族愛、俺いらねーよ」
「あ、そういうこと言っちゃうんだ」
「姉さんは、俺の必死さが分かってねえ」
シャーペンを机の上に放りだしたかと思えば、指を突きつけてきた。
「あんな『本当の貴方でないと嫌』みてーな台詞で俺が諦めるかっつーんだよ」
「あら、諦めてなかったの?」
「そんなチャチィ感情程度で、俺が傾くと思ってんのかよ、姉さんは」
…まあ、そうよね。私だって好きなものを簡単に諦められるようなら、初めから好きじゃないわ。
三上の言うことも尤もだ。
「…じゃあ、こうしましょ」
「え?」
「三上亮、ありのままの貴方で私を惚れさせてみなさい」
言ってから後悔したのは今更の話だ。
「………覚悟しやがれ」
ペロリと軽く唇をひと舐めした彼の仕種にゾクリとした。
まだ、私の中の感情は半分につき、簡単に彼に惚れてやるわけにはいかなかった。
元々、書いていたものはもっと違う話でした。
なんか、三上が拗ねてる話。でも、ちょっと書き直してるうちに「姉さん」とか呼ばせてみたくなったので、勢いのまま書いてみました。うん、いいな「姉さん」