出会いがあれば別れもある。
「先輩」
俺が決して名前を出さずに今から別れをする愛しい人の名を呼ぶ。
貴方は振り返り、小さく微笑んだ。刹那、悲しそうな表情になる。
俺は貴方のそんな顔をさせたいんじゃない。
目を軽く伏せて俺は一礼する。
貴方は手で軽く風で煽られた自分の髪を梳く。
フワリと風が吹く。
三月の初めに、こんなに優しい風が吹くとは思わなかった。
俺より背が低い貴方は風に髪を弄ばれる。
俺が笑うと貴方は、大人の表情で笑う。
瞬間に距離を感じた。
子供と大人という、縮められない距離間を。
「先輩」
今日初めて別れゆく貴方の名を声に出して呼ぶ。
「なに?」
小さく呟かれた言葉に、きつく胸が締めつけられた。
いつもこうなんだ。
貴方の声を聞くと胸が締めつけられて、苦しくて、こんな感情は要らないのに。
ただの先輩後輩でいたいのに。
それに先輩にはもう大切な人が居るのに…。
「俺…先輩と別れるの辛いです…」
「三上…」
俺の名を呼ぶ。
胸が高鳴った
ドキン
ドキン
その高鳴りの中にかすかに、ツキンと痛む高鳴りを感じる。
この痛みが嫌で。
想いを伝える事で自分が傷付くのを恐れて。
貴方に拒絶されるのが恐くて。
あぁ…憶病な自分が嫌いだ
「三上…神様って意地悪だよね」
先輩は切なそうに微笑む。
俺は貴方をじっと見つめた
「だってね…たった二年…俺が遅く生まれていれば、さ…こんなに辛くて悲しくて切ない思いをしないで済んだんだよ」
「先輩…」
「三上と…一緒に時を歩みたかった。俺が三上と知り合うより先に…大切な人を作るんじゃなかった」
胸がツキンと痛んでくる。
「先輩」
「好き…だよ、三上。俺の一番は…君だよ…。でもッ…」
「…っ先輩!」
距離が縮まった。
俺は先輩の元へ駆け寄った。
春風が吹く。
先輩を、初めて、抱き締めた。
先輩は俺の背中に腕を回した。
壊れるんじゃないかと思う位きつくきつく抱き締めた。
「好きです…先輩」
「俺も…」
春風が吹く。
優しく吹いた。
でも、その心は乾いた大地のようだった。
「……ご卒業おめでとうございます…」
その言葉は、俺が貴方から卒業しなければならない言葉でもあった。
貴方が、誰よりも一番…好きでした。
愛していました、先輩。
ご卒業、おめでとうございます…。
俺のたった一人の愛した人。
ONE
こういう改行だらけのは、個人的に好きじゃないのです。でも、こっちの方がしっくりきたので。